2012/02/07

水谷静夫『曲り角の日本語』(岩波新書, 2011)

曲り角の日本語 (岩波新書)
水谷 静夫
岩波書店
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豊富な文献調査と,計量的な実践に裏打ちされた言語理論は(よく分からないなりにも)興味深いものであるし,自分自身の言葉遣いを見直す上でかなり勉強になった.義務教育で教えられた学校文法が役になっていない(そして面白くもなかった)という感覚をもってこの本を読んだのでウンウンと頷くところも多かったのだろうと思う.

タイトルを見て勘違いしてはいけないところだけれど,若い人の言葉が乱れていてけしからんという軟弱なHOWTO本ではない.時代と共に言語も変化していくのは認めた上で,どの変化が合理的で,どの変化は無知,怠慢,不敬,責任回避等々による乱れなのかをきちんと考えなさいよ,というメッセージを受け取り損ねてはいけない.著者は本書を以下のように締めくくる(pp. 201--202):

私ごときものでも心配するのは、言葉のだらしない使い方に安直に流されて、断たなくてもよかった過去とのつながり(略)を、異質なものとして捨て去ることです。これが避けられるのなら、言語は移り変わってよろしいんです。皆さんは曲り角をどちらに行こうとなさるでしょうか。

学校文法は変えるべしというのが全編を通して強い調子で主張されていることのひとつ.その主張を簡単にまとめた第3章では現在流通している不完全な文法体系に対する問題意識と,新しい言語学の成果が概観できる.とはいえ,素人にはかなり難解な話で,完全な理解には遠く及ばなかった.自分が日本語についてまったくもって無知であることは,学校文法の偉大な成果と言うよりない(うそです.もちろん勉強が足りないせいですよ).やはり時枝「国語学言論」も読むしかあるまい.

最後に,国語教育に対する著者の危機感と憤りが伝わる部分を引いておきましょう.非常におすすめの本です.

p. 175 (ら抜き言葉に関して)

「ら抜き言葉」と世間が呼ぶ現象は...(略)...使用者が意図して「ら」を抜いているわけではないから、むしろ「ら抜け言葉」と呼ぶべきでしょう。命名自体から、言い出した国語審議会の頭の悪さが明瞭に分かります。使っているやつは「ら抜け」、命名したやつは「間抜け」ということになりますよ。

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