高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)
posted with amazlet on 07.12.11
水月 昭道
光文社 (2007/10/16)
売り上げランキング: 210
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体制批判に対する批判
学問を就職のための手段と考えている人は,まず大学院(博士課程)になんて行かない.多くのポスドクが就職難にある事実は否定できないにしても,そのうち多くが学問に夢を見たはず.夢破れるのを覚悟の上でなければ,博士課程に行くべきではない.よい証拠に,著者自身,学問の面白さに魅かれて学者になった旨が書かれてある.そんな人の,前半部の体制批判.どうにも理解ができない.
体制批判に理解ができないのは,私が官僚の側に立っているとか,権威主義だとか,そういうことではない.官僚の政策立案が失策だったことには同意していることは断っておこう.反発の根拠は,大学院に入学するのはだいたい22歳前後,思慮分別もついている年齢.自分の実力も,よく分かってきているだろう,ということである.そんな大人を捕まえて,就職難は国家の責任なんて論理はないだろう.うまくいったら,自分の努力.ダメだったら国のせい.それでは,利益追求に走った私立高校の例と同じだ.
さらに,今のところ修士課程修了の人間は(少なくとも理系では),厚遇される傾向にある.これは大学院重点化の影響で,大学ではほとんど何も教えられなくなってしまったからというのもあるだろうが,いい傾向ではないか.大学院に入って1年で芽が出ず,才能がないことに気付けば,そのとき就職を考えればいい.何も,教授の金集めに付き合って後期課程に進学する必要なんぞどこにもない.
教員市場批判に対する批判
再チャレンジに関してもひとこと.日本の労働市場が流動的でないことは,疑いようのない事実だ.もちろん,それは教員市場に限らず,である.30歳,オーバードクター,挫折,就職活動.難しいことは分かる.ただ,この問題の所在を教員や教員市場の質のみにおわせるのには無理がある.なぜなら,学生が減ってきている以上,教員の枠には限りがあるからだ.終身雇用を基本にした日本の労働市場を流動化することが,まずひとつ重要なポイントではないか.
教員市場の問題ばかりを揶揄することは,建設的な意見とはほど遠い.
正しく競争原理が働かない日本の企業では,新卒採用の新入社員を社内で育てればなんとかなる.企業の採用活動が新卒採用に偏っているのはこのためだろう.博士卒の30歳より,23歳の若者のほうが従順でいいのだろう.しかし,教育をアウトソースすることで,企業はコスト削減の可能性があるのではないか.企業はもっと効率や利潤を求めればいい.その結果市場は豊かになる.日本の労働市場が高度な競争原理の働く市場に変遷すれば,コスト最小化の結果として,博士の需要も少なからず増加すると考えられる.大卒新入社員ですらいつやめるか分からない時代なのだから,若干歳を取ってるくらいなんてことはない.社員に求めるものを少し変えればいいだけの話だ.もちろん,高等教育が必要のない職種もあるだろうが...
大学はどう変わるべきか
もちろん,大学の仕組みを大きく変える必要があることに異論はない.大学は,(直接的には)利潤ではなく,高度な人材育成を追求する団体であるという点で,企業と一線を画す存在であったはずだ.しかし,いまや大学は企業となんら変わらない,利潤追求主体となった.ここには,博士号取得者どころか学問の危機が潜んでいる.学問が純粋に知を探求する営為でなければ,学生が集まるはずなどない.欧米諸国と博士号保有者の割合で肩を並べようとするのは結構なことだが,その方向性が間違っているのだ.質より量の政策には何の意味もない.これは,長い時間を改善していくべきであろう.
著者が言うように,学生にはアカデミアへの就職に関する情報が正しく伝わらないというのもまた真実だろう.この大学のこの教員は信じるに値する人間か否か,博士課程に進んで自分に職が見つけられるのか,巧妙に隠される情報を学生がどのように知りえるのだろうか.ここには,改革の余地があると思う.
大学の中で起こっていることは,モラルハザード以外の何者でもない.大学が聖域でなくなった現代では,教員や大学に関する情報は正しく公開され,大学間での学生の流動性が今よりもなお高められるべきだろう.例えば,入った研究室が就職サポートといった点で気に入らず,研究室や大学を変えようとすると,学生は1年は無駄にするかと思う.この無駄がなければ,スタッフにはおのずと学生を守るインセンティブが生まれる.なぜなら,学生はいつだって有利な研究室に出て行けるのだから.情報が公開され,大学間の流動化が十分であれば,モラルハザードは解消されるはずだ.
結論
大学や官僚の失策は間違いない.しかし,愚痴ばかり言っていてはいけない.これからの時代を生きる人間が,自ら中心になって学問の未来を正していかなければいけない.そのためには,学界の仕組みに限らず,産業界の仕組みが正されなければならない.すなわち,労働市場の流動性向上,学界に関する情報供与により,競争原理が正しく働く市場を形成することが重要である.もちろん,市場原理により淘汰されていく大学や学生もいるだろうが,社会的な最適性を達成するためにはやむをえない.

1 件のコメント:
全く同感ですね。
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