2007/10/10

酒井・前多「金融システムの経済学」(東洋経済新報社)

金融システムの経済学
酒井 良清
東洋経済新報社 (2004/02/20)
売り上げランキング: 217135



最近は酒井良清先生の本ばかり読んでいます.この人の学界内での評価は知る由もないですが,金融=株式・債券市場という最近の流行とはすこし離れた銀行理論に関する本として,すごくためになります.

標記の本の主題は,「非対称情報を前提としたとき銀行制度・規制はどうあるべきか」といったことになるかと思います.このところ,不完備情報,不完備契約の理論にかなり興味が湧いてきたので,楽しく読めました.時間かかったけど...

そもそも銀行は2つの仕組みを担っています.全国のコンピュータネットワークを基礎に置いた「決済機能」と,黒字主体の貯蓄を赤字主体に貸し出す「金融仲介機能」の2つです.現在の銀行理論では,銀行は独立したこれらの業務を同時に扱う主体であると考えられています.この2つの役割の分離可能性(つまり,分離しても採算が取れるということ)が示唆されたのは近年になってからのようですが,ナローバンク論として重要な議論が行われているらしいです.記述からすると,著者らもどうやらナローバンク論の推進派のように見受けられます(もちろん,教科書なので中立的な立場で書かれてはいますが).

なぜナローバンクが重要なのでしょうか?それは,銀行が担う2つの業務がリスクを増幅しあう関係にあるからです.銀行は,比較的短期で運用される預金を集め,長期で貸し出しを行っています.つまり,流動性の高い債務を持ち,流動性の低い債権を保有していると言えます.預金者が銀行に対して不安を抱き一斉に取り崩しに走った場合,保有資産は非流動的ですから,債務を履行できずに破綻においやられる可能性があります.これが金融仲介に伴うリスクです.ひとつの金融機関が破綻したとき,決済機能を実現するネットワークを通して,他行の決済不履行を引き起こし(これは決済機能に伴うリスクです.為替の仕組みはこのようなリスクを常にはらんでいます),金融システム全体に影響が波及することになります.

金融システムは不安定なものだという認識のもとに,安定化のための制度作りをしなければならないということは,疑いようのない事実です.もちろん,制度を撤廃して市場規律に任せることが可能かという議論も必要でしょう.以上をふまえて,現代の金融システムが持つ問題点や,それを改善するための方策を理論的に研究していきたい人が,基礎の基礎の部分を学ぶ本として,本書はいい導入になるのではないでしょうか.

おしまい

0 件のコメント: