2012/03/15

福井健策 『著作権とは何か』『著作権の世紀』よんだ


 

 

  • 著作権とは何か ―文化と創造のゆくえ (集英社新書) [新書]
  • 著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A) [新書] 

著作権の全体像をはじめて学ぶのにはこの2つが一番いいかもしれません.なぜかを説明する前に,少し寄り道をして,一般論から始めさせてください

著作権をはじめとした知的財産権は(1)創作者に対して「独占権」を与えるための制度であって,(2)権利を強くすると創作の自由度を下げ,(3)権利を弱くすると創作のインセンティブを下げる.ほとんどの場合に独占はよくないことですが,少なくとも建前としては,(2:保護)と(3:制限)のバランスを取れば(1:独占)を正当化することができる,というのが今のところ一般的な視点だと思います.すなわち,(2:保護)と(3:制限)のどこかに丁度いいポイントがあって,著作権は適切な権利制限のもとで創作者の創作性を高める制度でありえる.しかしこの話の難しい点は,その丁度いいポイントがどこにあるかは微妙すぎて,著者が著作権制度についてどう思っているかによって,好意的に書かれたり,否定的に書かれたり,まったく違った主張がなされてしまう.なので,この手の本を読む場合には『今自分が読んでいる本がどういう立場なのか』を常に認識しておくのが重要と僕は思います

(2:保護)と(3:制限)のバランスはときに政治的なパワーバランスに左右されてしまうので『著作権はクリエイターを守るために重要だ』という言説に隠された真意にはさらに注意が必要になります(このあたりのことはレッシグの3部作を参照ください)

さて本題.この2冊のいいところは,著者の福井健策さんが法律家でありながら芸術愛好家であるということにあります.やや(2:保護)に寄っているようには感じますが,権利者の過剰な権利保護への圧力に対しては断固として反対する姿勢も読み取れ,非常にバランスのよい思想をお持ちの方とお見受けしました.そのため利点と問題点をバランスよく学ぶことができ,どちらの立場に立たれる人にとっても好感をもって読み進められると思います.

さらに,この2冊の小さな本ではたくさんの具体的な作品(判例ではなく!)の例を参照しながら,著作権制度について学ぶことができます.入門者にとっては,これほどありがたいことはないのではないでしょうか.

個人的にはやや(3:制限)に寄った考え方をもっております(経済学クラスタの人間の多くはそうだと思います)ので,少し反対したい部分もあります.例えば『著作権の世紀』(p. 100)には,ハリウッドの映画会社は著作権制度の恩恵があってこそ1本100億ドルもの制作費をかけた大作を作っても利益を出してやっていける,といった旨の記述がありますが,著作権制度がなければそもそも100億ドルもの制作費はかからなかった訳でしょうから,この部分は著作権制度をサポートする論理としては意味をなしていないと思います.

...とはいえ,もちろん,このようなわずかな瑕瑾をあげつらって批判をするつもりも資格もありませんので,この話はこのあたりに...全体として非常に優れておりますので,信用して読める新書だと思います!!

 

 

 

 

 

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