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- なんで払わないといけないの?
- なんでカネなの?
ふたつの含みがあります.そして本書の主張はこの2点に尽きるといっていいと思います.対談を書き起した本書は,著作権法の権利保護と権利制限のバランスを重んじる福井健策さんが,岡田斗司夫さんの斬新な発想にたじたじになるという構図.興味深く読み進められます.
本書は書籍の自炊についての対談から始まります.最近でも問題になったことなので,記憶されている方も多いと思います.
iPad 以後の世界では本だってデジタルで読める方がいいに決まっているし,スキャンしてくれる業者がでてくれば半年近く待ってでも紙の書籍を電子化しようと行列を作ります(ました?).個人で楽しむ分には自由に利用できるのが当然.だったら一番使いやすい形式で持ちたいでしょう?
もちろん,著作権法は他人のために複製をすることも,それによって収益を上げることも認めていませんので,著作権者から訴訟がおこります(「自炊」代行2社にスキャン差し止め要求 東野圭吾さんら作家が提訴).それは彼らに認められた権利だし,それで構わないのだけれど,作家の人たちが
『裁断された書籍について「本という物の尊厳がこんなに傷つけられることはとんでもないことだ」』
などとおっしゃられるのには違和感を覚えます.購入された書物が物理的に裁断されることを著作権法は禁止していないだろうし,私的複製の範囲であればコピーすることも許されているはずです.訴訟で問題にされたのは,裁断ではなく複製代行であるにもかかわらず,感情論によってプラクティカルな議論を置き換えようとしている.そのことに対する違和感だと思います.(弁護団に福井健策さんがおられるようですが,対談はこの訴訟より前に行われたようで,訴訟には触れられていません)
話が逸れました.要するに,所有のあり方が変わり,創作の仕方も変わってきているにもかかわらず,権利を守ることによって大きな利益を得る権利者が旧態依然としたビジネスモデルを維持しようとしている.創作活動の大半は無償で行われているにもかかわらず,小数の有力な権利者のためだけに著作権法が存在しているかのような現状に疑問を投げかけようではないか,ということです.
当然生まれるであろう,著作権のない世界で創作者はどうやって暮らしていけばいいの?という疑問には,そもそも創作活動だけで生計を立てることをあきらめろ,と答えます.そんな人は世界に1000人いれば十分で,その他大勢は別の仕事で生計をたてて創作活動を続ければいいじゃないかと.支援したいファンができれば少しは暮らし向きがよくなるかもしれない.それでも,本格的なマネタイズは無理である...
このような論点はすごく新しいという訳ではないのでしょうし,クリエイターには面白くない発想かもしれません.要するに同人活動みたいなもので満足しなさい,ということですからね.
きわめて極端な確定診断を補足する形で,未来への提言が行われます.岡田さんは最近よく耳にする贈与の経済から少し発想を進めて,お金のやり取りを放棄した世界が語ります.福井健策さんが提唱する全メディアアーカイブ構想 ――これはJASRACみたいな権利管理団体をあらゆるメディアで作りましょうという構想かな―― に日用品のマーケットなんかをくっつける.野菜を買った金額の数%を創作者に寄付する仕組みにする.誰に寄付するかは消費者が選べればもっといい.野菜も寄付もポイントを使えれば税金もかからなくていいじゃないの?
僕が創作者ではない,ということを差し引いても,岡田さんの観点は興味深く,学ぶべきことが多いと感じました.実現可能かどうかは別として,楽しい世界が待っているような気にさせてくれるいい本でした.
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