2012/02/27

アン・マイクルズ 「冬の眠り」 (黒原敏行訳,早川書房)

冬の眠り
冬の眠り
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アン マイクルズ
早川書房
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2012年2月16日現在,Amazon.co.jp にはレビューがまだないようなので,Amazon.com のほうをみる.すごく盛り上がっている.小説そのものよりも小説批評に感心してしまうという始末だった. 著者が詩人ということ,テーマが重厚で重要であることを絶賛したレビューに,詩人であるからこそ重くなってしまう語り,突然ふってわいたような登場人物の必然性に疑問を投げかけるなど,非常に面白く読ませていただきました.このレビューと一連のコメントが特に興味深いです.前作 "Fugitive Pieces"(邦訳「儚い光」) が非常によかったのに期待はずれという内容のもちらほらありました.前作は読んでいないので,それは今度読む.

小説は,アスワン・ハイ・ダムを建設中のエジプトではじまる.水没から救うためにユネスコ主導で行われたアブシンベル神殿の移設を監督するエイヴァリーと妻のジーンの喪失に関する物語.神殿の移設,カナダのセントローレンス湖に沈んだ10の村,ドイツ軍に破壊されソ連支配下のポーランド政府によって復元されたワルシャワ旧市街.3つの象徴的な出来事に触れて,深い喪失の悲しみに暮れる人々の心情が詩的な文章で描かれています

確かに二部のストーリーがやや唐突で無理があるとか,三部の展開が支離滅裂だとかという批判があってもおかしくはないような気がしなくもない.ポーランドのストーリーを挿入するためにはああいった展開に持ち込むしかなかったんでしょう.そういう意味ではもう少しプロットに工夫があってもよかったかな.それでもなお読み手を最後まで離さないというのが,オレンジ小説賞受賞作家の実力だということですかね.いやぁ,とてもよかったですよ.おすすめ

 

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